認知的不協和とは、自分に矛盾する2つの考えがあるときの不快感を表す言葉です。
自分の中で「ダイエット中だけど、ケーキを食べる」のような矛盾が起きたとき、この矛盾による精神的なストレスをなくすため「今日は特別な日だから食べてもOK」と自分の都合の良いように解釈することを言います。
矛盾によって不協和が生まれる
↓
不協和を無くしたり、減らそうとする
↓
自分の都合がいいように矛盾を正当化し精神的なストレスを減らす。
日常でもよくあるこの一連の流れのことを、認知的不協和と呼びます。
認知的不協和とは?
心理学で認知的不協和(Cognitive Dissonance)とは、矛盾した情報を知覚することを言います。
認知的不協和は、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって1957年(1)に提唱された自己矛盾の考え方です。
簡単に言うと、自分の中に矛盾があったら、その矛盾を正当化し無理矢理合わせて矛盾をなくしてしまうこと。自己正当化してしまうことをいいます。
人の認知には3つの関係性があり、この3番目が認知的不協和です。
1,協和関係(一致)
外食時に酔っ払いたくないので、ワインではなく水を注文する
2,無関係な関係
外出時に酔いたくないので、シャツを着る
3,不協和関係
外出時に酔いたくないのに、さらにワインを飲む
人は自分の行動や感情、価値観などと何かしらの不協和を感じると、ストレスを感じます。そして、ストレスを減らすため、矛盾を減らしたりなくそうとし、その結果、自分の考えや行動を正当化してしまうのが認知的不協和というわけです。
矛盾した2つの認知があると、その不協和を解消するために、比較的変えやすいほうの認知を変えて協和している状態にするか、矛盾した情報を見ないようにするという方法をとります。
影響力の武器に出てくる一貫性は、矛盾から行動を変えるという認知的不協和の一つです。
認知的不協和の問題点
ただ、いっけん良さそうにみえる認知的不協和には問題があります。
それは、一連の流れの中で自分の良いように解釈して失敗したり、他人に操られて詐欺被害や不幸な人生を歩む事になるからです。
これは人のバイアス(認知の歪み)に関わることで、この認知の歪みを上手く利用されると詐欺や事件に巻き込まれ人生を棒に振ってしまう事もあるわけです。
なので、この認知的不協和は非常に怖いって事を知っといてください。
認知的不協和の具体例と実験内容
では、実際に認知的不協和が起きる例を見ていきましょう。
今回は、いろいろな場合に分けて、実験内容と身近な具体例を挙げていきます。
有名な実験内容
認知的不協和について、フェスティンガーとカールスミスによって行われた有名な実験があります。
この実験は、大学生に1時間の退屈な作業をさせた実験です。
実験後に、実験はスゴく楽しかったとプレゼンするまでが1セットで、プレゼン後に20ドル貰えるグループと1ドルしか貰えないグループを作り、それぞれの心理状態を計測しました。退屈な作業を楽しかったとプレゼンするわけなので、ここで自分に嘘をつき認知的不協和を作り出すというわけです。
<その結果>
20ドル払ったグループ:作業を退屈だと評価
1ドル払ったグループ:作業を面白かったと評価
このように1ドル払ったグループだけ、退屈なはずの作業を面白かったと答えました。これが認知的不協和とその後の正当化による影響です。
20ドル払ったグループは、「面白い課題」とプレゼンするように誘導されましたが、20ドル貰うことで認知的不協和が緩和され、自分自身は楽しかったと思わなくても良かったわけです。
逆に、1ドルしか払わなかった被験者は、他に理由がなく認知的不協和で「課題が面白い」と思わざる得なかったわけです。
このように、ブラック企業などでも人は誘導されるので、気をつけなければ流されるというわけです。
日常生活の例
日常の中にも、数えられないほどたくさんの認知的不協和が潜んでいます。その例を一部紹介します。
買い物
たとえば、自分が購入した商品を想像すると分かりやすいです。
AとBの商品に迷っていてAを購入したが、購入後にBを薦めるテレビ番組を見たときの事を考えてみます。この場合、人ってテレビ番組自体がいい加減なものだと言ったり、テレビが言ってたところ以外をいいと言ったりして、結局自分が選んだAの方がいい物だと正当化させるわけです。
これが認知的不協和とその解消方法に当たります。
また、自分と似た考えての情報だけを集めたり、自分と違う考えを見ないというような確証バイアスを使って、不協和を取り除こうとします。不協和音のメッセージを避け、協和音のメッセージを好むということを選択的暴露です。
新車の購入
買い物に加えて、新車の購入が分かりやすいです。
新車を購入した後に、熱心に車の広告を見る人がいる。この人は、自分が買った車と購入しなかった他の車を見比べて、自分の決断と行動を自己正当化していると言うわけだ。
つまり購入後は、自分が選んだ商品を高く評価して、選ばなかった商品を低く評価する。これはよく思い当たる。人の面白い特性ですね。
逆に、選んだ後に他の人から「そのAよりBの方が良い商品だよね」なんて言われた日には、その他の人のことを否定し始めので面白いです。
政治
政治でも認知的不協和理論が利用されます。
投票は好みや信念の表現なので、投票さえも認知的不協和によってコントロールされることがあります。
ある研究で1972年〜1996年の6回のアメリカ大統領選挙が研究され、投票者の意見が選挙の前後で変化することが分かりました。特に接戦の選挙では投票者の意見が変わりやすく、選挙中に認知的不協和の考えを用いることで選挙に有利になると言われています。
喫煙
タバコを吸う人にも認知的不協和が起きています。
喫煙についての研究では、喫煙者はタバコを吸うことやタバコを吸うことによるデメリットついての認知的不協和を減らすため、正当化を用いていると言われています。
これは、喫煙自体が、
・ストレスや気持ちを落ち着かせてくれる
・集中力を高めてくれる
・私の人生の重要な一部である
・人付き合いをしやすくしてくれる
というように、自分にとってプラスというふうに正当化しているわけだ。
プラスになる部分はあるかも知れないが、健康には明らかに悪い。
恋愛
相手をデートに誘うとき、小さなYesを積み重ねるという方法があります。
これは人の一貫性を利用したもので、デートに行こうと誘うよりも「ボールペン貸して」のような小さな断られにくいお願いから始めて、お願いを少しずつ大きくしていくとデートの約束に繋がるって方法です。
これは誘われた側からすると、本当は断りたかったのにという気持ちで、認知的不協和が生まれます。ただ、この矛盾を減らそうと「生きたかったレストランだからしょうがない」という心理が働き、行動を正当化します。
仕事での例
仕事では、認知的不協和がより悪用されがちです。
ブラック企業で働き続ける
明らかに安すぎる給料で、残業代も出ないブラック企業で長時間労働している場合、認知的不協和に陥っている可能性があります。
「お客様のために」「それが仕事だ」のような、常識を言われると長時間働くことを正当化してしまいます。さらに、社訓の読み上げやあたかも自分の意思でやってるかのような考え方の強要は、より認知的不協和を強め働く自分を肯定してしまいます。
「やりがい」や「生きがい」のような手口で、給料を払わずに働かせる手法は認知的不協和の悪用なので、自分がそんな状況にいないか自問してみてください。
同世代の成功
同期や同世代、自分より年下の成功、お金を持ってる姿を見たくないという気持ちはありませんか?それも認知的不協和です。
同世代の成功を見ると、自分が素晴らしい生活をしているという自己認知に矛盾が起きます。そのため、ニュースなどを見ないようにしてストレスを受けないよう認知的不協和を働かせるわけです。
認知的不協和を減らす方法
認知的不協和を減らす方法は、主に5つです。
1,考えを曲げて矛盾をなくす
2,盲目的に信じる
3,自分の価値観にあった方を信じる
4,自分の価値観と違う物を否定する
5,矛盾した情報を見ないようにする
実際には、人は4つの方法で認知的不協和の大きさを減らします。
ただ、この4つの対処法では人間のバイアスを乗り越えることはできません。
そこで、認知的不協和に対抗できる3つの方法を紹介します。
1,継続的な情報調査
2,態度の変更
3,最小化
継続的な情報調査
認知的不協和におちると、情報を収集しなくなります。
その場合、自分が間違ってることが分からないので、継続的に情報を収集し続けるという方法があります。
この方法を使えば、一度は認知的不協和で間違った方向に進んだとしても、新しい情報を入手することで自分の目的に合った道に戻ることができます。
態度の変更
自分の信念自体を変えるという方法です。
信念は年齢や経験によって変わっていくものです。それに合わせて選択肢も変わっていくので、自分の信念の見方を変えることで認知的不協和におちいらない助けになります。
特に、商品の価値は欲しい年齢や時期によって変わります。
目的にあわせて、認知的不協和の対策をしてみてください。
最小化
これは価値の最小化をするという考えです。
最小化は、不協和となっている要素の重要性を下げる考え方です。。例えば、ダイエットしているときにケーキを食べたくなったら、「このケーキは美味しくない」とか「ケーキを食べると10km走らなきゃいけない」みたいに、ケーキの価値を最小化すればいいってわけです。
このほかにも、手を洗うと認知的不協和が減るという研究もあるので、何か判断するときには手を洗ってみるのもおすすめです。
マーケティングへの応用
認知的不協和をマーケティングに活かすにはどうしたらいいんでしょう?
有名なものを2つ紹介します。
レビューを利用する
購入者の認知的不協和をさげることで、購入に繋がりやすくなります。
例えば、レビューを見て貰うという方法があります。
商品を購入しようとする人は、自分の中で認知的不協和が発生しています。その認知的不協和を乗り越える後押しとして、レビューが効果的という研究があります。オンライでその商品に関する肯定的なレビューをみた消費者は、商品に対して肯定的になり、消費者に影響があることが分かっています。
これは、自発的な自己正当化ではなく、レビューを見たことによる意思決定を伴う正当化が起きたと考えられます。
つまり、肯定的なレビューを見て背中を押されて購入に踏み切ったというわけです。
意図的に認知的不協和を発生させ解決する
また、もう一つの方法として、意図的に認知的不協和を発生させ解決すると言う方法があります。
人の説得には、相手に不協和音を経験させ、その不快感を解消する方法として自分の解決策を提示しなければいけません。「〜ですよね」とか「〜って悩みありませんか?」みたいな営業トークや文章がこれにあたります。
これは相手が考えを変えるか分かりませんが、あえて不協和音を発生させなければ説得はできないという理論です。同じように、不快感があるからこそ人は不協和を下げる方法として不確認情報の回避を行うことができるので、意図的に不協和を起こすのが大切ってわけです。
ビジネスにおける認知的不協和の活用術
最後に、仕事上で使える認知的不協和の5つの活用方法ついて紹介します。
- レビューを書いて貰う
- アフターフォローにも気を配る
- 注目が集まるところに矛盾をいれる
- 認知的不協和を解消する方法を伝える
- 相手にお願いしてみる
レビューを書いて貰う
お客さんに自社の商品の肯定的なレビューを書いて貰うと、より深いファンになってくれます。
これは自分の行動を正当化する物で、認知的不協和によって自分の考えを正当化します。「購入して良かった」という気持ちを強くできるので、商品に自信がある方におすすめです。
アフターフォローにも気を配る
商品やサービスを購入した後に、自分が良い買い物をしたか不安になったら、認知的不協和によって自分の買い物は良かったと思いこもうとします。
そのため、手厚いアフターサポートや丁寧な接客対応があると「いい買い物をした」という気持ちが強くなるので、より深いファンになって貰えると言うわけです。
注目が集まる部分に矛盾を入れる
キャッチコピーなど、注目が集まるところに一般的な考えとは違うことを入れます。
<例>
・痩せたければ脂肪をとれ
・貧乏はお金持ち
・脳を鍛えるには運動しかない
このように、一般論とは矛盾した表現が入ったキャッチコピーは、相手に認知的不協和を起こさせ注目を集めます。すると、相手は気になって、認知的不協和を解消するために詳しく内容を見てくれるというわけです。
認知的不協和を解消する方法を伝える
相手に「あなたが買うべき理由」を伝えると、相手の認知的不協和が解消されて買って貰いやすくなります。
シャンプーを例にすると、髪に良い香りにしたい人には〇〇のシャンプー、髪をつやつやにしたいならXXのシャンプー。のように、その人に関係づけて購入すべき理由を示してあげると、相手は購入しやすくなります。
相手は自分にとって必要なものと感じるので「やっぱり買おう」という気持ちになるわけです。
相手にお願いしてみる
相手に何か小さなお願いをすると話が進みやすいです。
例えば、出先で「トイレを貸して貰えますか?」のように、ほぼ断れないだろう小さなお願いをしてみます。きっと相手は許してくれるので、1つYesという回答が貰えるわけです。
この1つYesが貰えると、相手は警戒を少し解きます。なぜなら、相手自身に警戒している人の願いを聞いたという矛盾が起き、そのあと、「願いを聞いたのだから悪い人じゃない」という認知的不協和を解決させる勘違いを起こします。
こうやって、小さなYesを積み重ねることによって、相手はこちらのことを好意的に思うようになり、求める結果が得られやすくなるわけです。
まとめ
このページでは、認知的不協和についてまとめました。
認知的不協和とは、自分の中に矛盾する2つの考えがあるときの不快感を表す言葉で、その解消まで含めて使われます。
認知的不協和は、世の中のいたるところで使われています。自分の身を守るためにも、そして自分で上手く使って目的を達成するためにも、今回の内容を参考にしてみてください。
- Festinger, L. (1957). A Theory of Cognitive Dissonance. California: Stanford University Press.
- 消費者の購買における認知的不協和とオンラインレビューの関係
- Brehm, J.W.: Postdecision changes in the desirability of alternatives, The Journal of Abnormal and Social Psychology, 52(3), pp.384-389, 1956.
- Bawa, A., Kansal, P.: Cognitive dissonance and the marketing of services: some issues, Journal of Services Research, 8(2), pp.31-51, 2008.
- Selective Exposure in the Communication Technology Context