人を動かすテクニックが詰まった名著「影響力の武器」で有名なドアインザフェイスというテクニックがありますね。
このテクニックは、大きなお願いをして断られた後に小さなお願いをすれば、人へのお願いが最大3倍も成功するようになるという効果的な方法です。約50年前の1975年にロバート・チャルディーニの研究から有名になったもので、最近再検証され、いまもなお強力な交渉のテクニックです。
ちなみに、ドアインザフェイスはFreedmanとEraserさんが1966年に出した論文が大元の由来となっています(3)。ドアインザフェイスと逆のフットインザドアもこの論文から分かっているので、すごい論文です。
そんなドアインザフェイスですが、自分で使うときにどんな条件ならこのテクニックを有効に使えるか?よく分かりませんよね。
そこで今回は、この1975年に行われたドアインザフェイスが有名になる由来となった研究(1)を元に、実験条件と効果を紹介します。この内容を理解すれば、お願いや交渉が最大3倍も上手くいくようになるので、これはぜひ知っときたいです。
ドアインザフェイスの実験内容
ドアインザフェイスは、譲歩とそれに対する恩返し(譲歩)の心理を利用します。
実は原典の論文を見ていくと、ドアインザフェイスの効果を検証するために3つの実験が行われています。
- 1人で大→小のお願いの場合
- 2人から大→小のお願いの場合
- 1人から小→小のお願いの場合
この3つを検証することで、ドアインザフェイスの効果を明らかにしようとしています。
実験1:1人で大→小のお願いをする場合
実験の内容は、学生の実験者がアメリカのアリゾナ州立大学にいた男女72名に声をかけ、お願いを聞いて貰えるか調査しました。このとき、同性にしか声をかけないように設定されています。
そして、下の大きなお願いと小さなお願いの2つをして反応を見ています。
・大きなお願い
現在、少年鑑別所でボランティアの無給カウンセラーとして働いてくれる大学生を募集しています。週に2時間、最低でも2年間は働いてもらうことになります。この仕事は、少年院にいる少年少女のお兄さんやお姉さんのような役割を果たすことになります。
・小さなお願い
非行少年たちが2時間かけて動物園に行く際の付き添いをしてほしい。
- 大きなお願いを断られた後に小さなお願いをする
- 小さなお願いだけをする
- 大きなお願いと小さなお願いのどちらかをやって欲しいと言う。
返報性や恩返しの心理を利用したドアインザフェイスですが、実験結果はどうなったのでしょう?それぞれの結果を見ていきます。
<結果(効果)>
なんと、小さなお願いだけするより、大きなお願いを断られた後に小さなお願いをしたほうが3倍以上もお願いを聞いて貰いやすくなるという結果になりました。
条件 | お願いを聞いた割合 |
大→小 | 50.0% |
大と小から選ぶ | 25.0% |
小のみ | 16.7% |
※1項目の対象人数は24人ずつ
これから、大きな要求をした後に譲歩して小さな要求をすれば、要求が聞いて貰いやすくなることが分かります。
実験2:2人で大→小のお願いをする場合
次は、同じ条件で集められた男性58人が対象となりました。
男女1名ずつの2名で、1人が1つめの大きなお願いをした後、もう1人が小さな質問をします。また比較として、2人で大きな質問をした後、別の関係無い人がきて小さなお願いをする場合も調査されました。
質問内容は、上の実験1とほぼ同じ質問をしています。
<結果(効果)>
なんと、別の日とがお願いしても約1.76倍もお願いを聞いて貰いやすくなるという結果になりました。
条件 | お願いを聞いた割合 |
グループの2人が大→小 | 55.5% |
大のあと関係無い人が小 | 10.5% |
小のみ | 31.5% |
※1項目の対象人数は大→小20、他は19人
この結果から、2人のグループでお願いしてもドアインザフェイスの効果がある事が分かります。要求の譲歩はグループ相手に働き、グループとは関係の無い第三者からのお願いには効きづらいってわけです。
また、大きなお願いの後に別の人が小さなお願いをすると、普通にお願いするよりも引き受けてくれる確率が下がります。これは、お願いされる側に何度もお願いをされて嫌がる気持ちが入るのでやらない方が良さそうです。
実験3:1人で小→小のお願いをする場合
3つめは、他と同じ条件で集められた男女72人が対象となりました。
実験1と同じように近づき、3つの条件で比較します
①大きなお願いを拒否された後、小さなお願いをする
②小さなお願いを拒否された後、小さなお願いをする
③小さなお願いをする
この②の小さなお願いは
・非行少年たちが2時間かけて動物園に行く際の付き添いをしてほしい。
・非行少年たちが2時間かけて博物館に行く際の付き添いをしてほしい。
と、行き先だけ変えて同じレベルのお願いをしています。
<結果(効果)>
なんと、小さなお願いを続けても効果は無いという結果になりました。
条件 | お願いを聞いた割合 |
大→小 | 54.1% |
小→小 | 33.3% |
小のみ | 33.3% |
※1項目の対象人数は24人ずつ
この結果から、小さなお願いを続けても相手が譲歩されたと思わなければドアインザフェイスの効果が働かないことが分かります。相手に譲歩の心が生まれるかってところがポイントってわけです。
結論
ドアインザフェイスのテクニックは、相手に譲歩の気持ちが生まれることがポイントになります。
<ドアインザフェイスの心理の流れ>
①相手は要求を断ることで、心の中に申し訳ない気持ちが生まれます。
②そしてこちらが譲歩を示して、小さなお願いに変える。
③譲歩してくれたのだからと、相手も譲歩しようと思い要求が通りやすくなる
このような流れとなってます。
この心理的影響を、影響力の武器の中では「返報性」と呼んでいます。返報性が働くと、脳が自動的に反応して動いてしまうので注意が必要ですね。
最後に
実は、この論文には検証人数が少なかったり、アメリカの大学生のみが対象だったりと、効果があると言い切るには疑わしいという問題点があります。
なので、この論文の信憑性はこのくらいです。
信憑性:
効果にばらつきはありますが、再現性はあるていど出ている内容なので、安心して使えるテクニックかと思います。
また、2020年になって本当に効果があるのかを再検証されているので、気になる方は見てみてください。